****では実際、台風の眼の中はどうなってるんだろ???   

下の図は台風の眼がどのようにして出来るのか簡単な模式図を描いてみた。

①海水から得られた水蒸気が上昇し雲を作る時に潜熱を放出する。
②潜熱により温度が上がり空気が軽くなる=気圧が下がる。
③下がった気圧を埋めるために中心に向う空気の流れが発生する。
④地球の自転の影響を受け、空気の流れに回転力が加わり渦巻きに成長する。
⑤更にこの循環が加速されて渦巻きが強くなる=第二種条件付き不安定(CISK)
⑥中心に向かうに従い風速が強まり、更に回転半径が狭くなるため強い遠心力を受けるようになる。
⑦遠心力が風力(気圧傾度力)と釣り合った所より内側に風が入り込めなくなり、それより内側が眼の領域となる。

傾度風 -(1/ρ)∂p/∂r+fv+v2/r=0
-(1/ρ)∂p/∂r:気圧傾度力、fv:コリオリの力、v2/r:遠心力である。
台風や竜巻のように低気圧性の気圧傾度が極めて大きい時fvを無視でき、近似的に-(1/ρ)∂p/∂r+v2/r=0が成り立つ。
気圧傾度力と遠心力のみで釣合いがとれた状態が出現し(旋衡風)、その内側が眼になるのである。
温低化が始まっていない台風或いは熱低での風速は距離に反比例して加速的に強くなり、壁雲で最大値に達する。
壁雲より内側では距離に反比例して弱くなり、最も中心ではゼロになるが、台風が進行方向に速度を持っている場合や、
渦がシンメトリーでない事などで、風速のゼロ点は渦中心とズレているのが普通である。
以下、右図は典型的な台風の眼の一例を模式化したものである。
 
 
                       ****眼の定義??****
と言う事で台風の中心付近に現れる静穏域ということになるが、厳密にいうと遠心力によって生じた晴れ間である。
しかし、台風の眼と言っても多種多様であるので、以下、代表的な例を挙げて見る事にする。
 
台風の眼いろいろ・・・    
一口に台風の眼と言っても千差万別であり、大きさも直径5キロに満たないものから直径300キロに達するものまで
確認されている。一般的に直径50キロ位が多く、発生当初は歪な楕円で発達するに従い真円に近くなるが、猛烈に
発達したものでは6角形をしている場合があり、これはロスビー波が壁雲の回転と同調して起こるとされている。
一般的に強い台風では真円に近い顕著な眼があり、最盛期を過ぎると急激に大きくなる。
これは気圧傾度力が弱まっても暫く運動エネルギーが保持されるため、解放された遠心力による。
また、中心気圧が高くても、眼のはっきりしているものは風が強い傾向にある。
尚、どのような台風でも眼に相当する区域は風が弱くなっているものの、一般的に晴れ間を臨む事は少ない。
この理由として上層雲に覆われていたり、地形などによる乱流で眼の中に雲が入り込んでしまった事による。
 
温帯低気圧化による眼の変質  
温帯低気圧化が進んだ場合、後方からの寒気団の侵入により渦軸が鉛直でなくなり下層と上層の渦の乖離が始まるため、
例え眼に入っても静かになるだけで、上中層の雲により青空は見えなくなる。更に温低化が進んで、ウォームコアの消失と
前線面の侵入により下層渦も非対称になるために遠心力が働かなくなり、下層においても眼は不鮮明となる。
温帯低気圧化しつつある台風では、風速は弱まるが強風域は広がるので注意が必要である。
また温低化が進むと雨雲は進行方向に集中するようになり、軸対象が崩れ始めると同時に眼の後方から乾燥した冷気
が入り込むことにる晴れ間(ドライスロット)が生じるため、後方の壁雲は不明瞭となり眼と同化したように見えるようになる。
 
    
                           地形による眼の変形
眼が真円と考える人が多いようだが、実際は地形や不連続線等の影響を受けて変形している場合が多い。
一般的に、眼は標高の低い所に沿って、或いは進行方向に引きのばされた楕円になっている事が多い。
この等圧線の間延びした領域に低気圧を形成する事もあり、この内側では風が弱く「嵐の前の静けさ」を形成する。
また、一般的に等圧線の間延びした方向に沿って台風本体は進む傾向がある。
眼は陸地に近づくにつれ摩擦抵抗により遠心力と風力のバランスが崩れて陸地に平行な形で閉じる。
しかし海に抜ける時は、山を駆け下る下降気流と遠心力が解放される事により再び眼が開く事が多い。
 
複眼    
気象衛星やレーダーエコー等では時として複眼を観る事がある。
複眼については壁雲の内側を壁雲の流れに沿って周回するタイプと、壁雲の外側に別の中心がある場合があるが、
前者は、いわゆる「ドーナツ台風」で多々見られる現象であり、後者は普通の台風が上陸後に山岳等で分裂した場合
に良く見られる。このような台風の場合、台風情報でいう暴風域や強風域はアテにならない場合が多く、台風が遥か遠
くに過ぎ去ってから最大風速が出る場合もあり、極端な場合、発表された暴風域の外側で最大風速を観測するケース
すらあった。尚、このような台風は回転半径が大きいため遠心力が効きにくく、中心気圧が浅くても意外と風が強いこと
も多く、更に広範囲で長時間に渡り強風をもたらし、上陸後もあまり衰弱しないのが特徴である。
以下は複眼の構造を簡単な模式図で示してみた。
 
      
    
多重眼    
複眼と同じく多重眼も衛星写真やレーダーエコーでよく見かける。
台風における最大風速の出ている壁雲帯は同じ積乱雲が眼の周囲を周回しているのではなく、台風外部から供給され
る水蒸気によって新しいものと常に入れ替わっている。その過程は、壁雲の外側に新しい壁雲が形成されると、水蒸気
を含んだ気流がせき止められるために元からあった壁雲(内側の壁雲)は衰退しながら眼の中心部に向かって脱落する。
その過程で多重眼をしばしば観るのである。多重眼では壁雲に沿って最大風帯が何重にもなっていると推測される。
 
               
義眼   
本眼の周辺部に出来る晴れ間ということでは一見複眼と類似しているが、複眼が其々の渦中心に対応するのに対し、
義眼は渦中心や副低気圧と無関係な位置に生じる晴れ間であり、眼の周辺部に偶然生じた晴れ間に他ならない。
義眼の定義そのものが曖昧だが、台風の眼と誤認誤報される場合も少なくないようだ。
複眼の中心では風速シアを生じているのに対し、義眼では一様に強風が吹いている事が決定的に異なる。
台風義眼の一例として洞爺丸台風が有名だが、これは副低気圧の仕業であり、義眼ではなく複眼と言えるだろう。
一般的に義眼が発生する条件は、地形的な風の攪乱や温帯低気圧化により乾燥大気が中心付近に流れ込む時、
中心付近における風速シア等が考えられるが、何れの場合も台風が衰弱過程にある時に見られるようだ。