台風の眼に入る事は皆既日食を観るよりレアなのか??

当時俺が高校1年の夏休みだった昭和50年8月17日(日曜日)の話である。
夏休みとはいえクラブ活動のために登校を余儀なくされていた中の貴重な日曜が台風に祟られ、ふてくされて窓の外で荒れ狂う風雨を恨めしく眺めていたものだったが、風雨があっという間に静まったのでベランダから外に出たら海側の空に差し渡し10キロ位の青空がポッカリ空いているのが見えた!!、その青空の周りを真っ黒い雲が素早く流れているのに何故か青空の中の雲は止まって見えるのであった。更に、その青空の向こう側に塔のように覆い被さるような巨大な積乱雲が真白く輝いていたのである。それより印象的だったのが、青空の中央部に蜷局を巻いた雲が浮かんでた事だった。

あれからおおよそ40年もの月日が経過したにも関わらず、あの時観たモノが何だったのか?、その核心に未だに出逢っていない。
その核心に触れてみたいという想いは20代の頃から有ったものの、移動しつつネットからリアルタイムで気象情報を得ながら台風の眼を追う事など当時は夢のまた夢であり、当時出来る事と言えば台風の多く通過する地域に移住して通過するのを待ち構える事しか方法が無かったのであった。しかし、素人のストームチェイスが可能になった現在においても、残念ながら15年間、台風の眼の核心に迫ることは出来ていない。この原因として自分の台風運が悪い事が最大の要因とはいえ、台風が筆者在住の北九州エリアに殆ど来なくなった事や、中心が通過する時間帯が全て夜間に当たっていた事も大きい原因であった。

因みに筆者は天体観測にも興味があり、過去に皆既日蝕を2回と金環日蝕を3回観に行った事があるが、そのうち好天に恵まれ実際に観れたのは皆既1回、金環2回であり、つまり自分の場合、皆既日食を観るより台風の眼に入る方が難しかったのである。
なぜそうなるのか??、単刀直入に言えば、秒単位、メートル単位での予測が可能な天体現象は其処に行けば必ず見られる(晴れていれば)が、台風の眼の場合は「何時何処に現れるのか??」が判らないからに他ならないのである。

では、台風の眼に出逢う確率は人の一生においてはどのくらいなのだろうか??
知人からの聞き取り調査では、北九州~中国エリアでは0~3回、関西~関東でも同じく0~3回、沖縄~南九州では3~5回位、東北~北海道で観たという人には出逢っていない。

そこで単純な計算をしてみることにした。
台風の眼の平均的な直径60キロ(トラックラインから半径30キロ)として換算すると、過去10年間において眼に入らなかったと推定されるエリアは中国地方中部、四国北西部、北陸、青森県の内陸部、北海道の西岸を除く地域となる。更に過去30年間に遡ると、台風の眼に入らなかったと推定されるエリアは北海道の内陸部と青森県の一部となり、つまり日本の殆どの地域に住んでいても、30年間住んでいれば100%眼に遭遇可能な訳である。だが現実はそう簡単ではなく、その半分は夜間に当たる確率になるので、実際は倍の月日が必要になり、更に眼の遭遇を困難にしているのは、日本付近では通過地点において眼が開いていない場合の方が多い事である。
緯度が高くなるに従い(北上するに従い)台風そのものが温帯低気圧に変性していまい、既に眼を失ってる場合も多い。
このような諸条件を満たす地域として上げられるのは言うまでもなく南西諸島であるが、本土では九州沿岸、瀬戸内を除く四国沿岸、紀伊半島から関東地方にかけての沿岸部に限られる。従って、以上の条件を満たさない他の地域に在住している方々では、実際に眼に出逢う可能性は極めて低く、一生に一度有るか無いかであろう。

因みに余談ながら、皆既日食は1地点に絞れば350年に一度、金環日蝕は250年に一度である。