*真冬の台風*

台風の発生は海水温が27度を超える低緯度海域に限られる。
しかし、真冬の比較的高緯度の海域にも台風(熱帯低気圧)に極めて類似した低気圧が発生する事は意外と知られていない。
その名は「ポーラーロー」!、直訳すれば「極低気圧」と言う「熱帯低気圧」とは真逆の名称が付いているから台風とは全く異なるモノに誤解されそうだが、実際、「ポーラーロー」の構造は普通に見かける低気圧より遥かに台風に類似した構造を持っている。

ところで気象に興味を持っていたにも関わらず、筆者がポーラーローの存在を知ったのは予報士の勉強を始めた時であった。
それもその筈で、ポーラーローという名称は専門家や気象関係者の間でしか使われていないために、お馴染みの天気図では普通の低気圧として描かれている(規模が小さいが為に描かれない事も多い)からである。しかも日本付近での発生域は冬場の日本海に限られ(他でも稀に発生)る事や、発生しても速やかに消失する事が多く、水平規模が普通の低気圧や台風より狭いために影響範囲が狭い事等がマイナーな存在とされる理由であろう。また、気象衛星が普及していなかった頃は上陸時まで発見されない場合もあったように聞いている。
尚、ポーラーローを寒冷低気圧と混同して表記されているのを新聞紙面等で見かけるが、厳密には別のモノであり、上層の寒冷渦を寒冷低気圧と称し、これに対してポーラーローはジェット気流の寒気側(極側)に発生する小低気圧の総称である。
一般的にポーラーローの上空には寒冷渦(寒冷低気圧)があり、上空の寒冷渦の中の正渦度極大域と対応している事が多い。

しかし小さいながらも中々の曲者で、中心付近では非常に激しい対流性の雲が有り暴風雨(雪)を伴う事も多い。
突然ゲリラ的に発生して上陸地点に災害をもたらす例も多く、構造上も台風に近いために中心に顕著な眼も見られるのが特徴である。。筆者の在住する地域は日本海に面しているために稀ながらポーラーローがやってくることがあり、台風オフシーズンにポーラーローを追っているが、近年、筆者在住の地域にポーラーローが南下してくる事が極端に少なくなっているように感じる(きちんとした統計を取っていないので「感じる」と言う表記にした)。つまりポーラーローのコースが昔より北にシフトしているようだが、これも温暖化が背景にあるように思われる。ポーラーローが台風類似の構造を持つ理由として、普通の低気圧が気温や密度の差による位置エネルギーを運動エネルギーに変換して発達するのに対して、ポーラーローは凝結による潜熱及び相対的に暖かい海水からの顕熱をエネルギー源としているために中心に暖気核を持つ事による。尚、一口にポーラーローと言っても多種多様な形態があり、発生のプロセスも普通の低気圧に類似しているものから殆ど台風的なものまであって、大きさも直径500キロを超える(メソα~総観規模)ものから、小さいものでは直径20キロ程度(メソβ)しかないものまで有るようだ。

ポーラーローの代表的な例としては、日本海では以下のようなものを見かける事が多い。


*傾圧不安定タイプ*
下層に気温差を伴う傾圧場があるとき上空に寒冷渦がやって来ると、下層で成層不安定を起こし発生するので一般的な低気圧と区別が付き難く厳密にはポーラーLOWとは言わない場合もあるようだ。構造は普通の低気圧と同様に強風域は広範囲に及ぶものの最大風速はそれほど強くなく、ポーラーLOWに良く見られる「眼」もはっきりしない事が多いようだ。


*順圧不安定タイプ*
上層に寒気が南下し寒帯ジェット内側の正渦度域の下層で風速シアによる渦が生じると、海上からの顕熱を巻き込み更に積乱雲に伴う潜熱も相まって発達する。
周辺との気圧差は高々2~4hPa程度で鉛直に精々3km程度の高さを持つポーラーローの中では最も小規模で、上陸すると速やかに消失するが、小規模ながらも台風並みの暴風を伴う場合も少なくない。
日本付近では、日本海西部から山陰及び北陸沖合で見られるJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)内で発生する。
中心に台風類似の「眼」を持つ渦として衛星画像でよく見かける。

*CISK(シスク)タイプ*
上層に非常に強い寒冷渦が暖かい海上に南下して来ると、下層の暖湿気との間で対流を起こして発生する。
上空寒冷渦内側の正渦度極大域に対応して発生し、中心に台風類似の暖気核が有り、背の高い対流性の雲を生じて小規模ながら台風そっくりの「眼」を持った渦巻きとして発達する。最大風速は時として35mを超えた報告もあり、「真冬の台風」の異名がある。
最近の顕著な例としては、2011年2月12日及び14日に山陰沖で発生したものがある。
昔は山陰から北陸にかけての日本海での発生が良く見られたが、2012年以降より急激に発生数が減ったように感じる。
これは温暖化により寒気の南下が減った事が背景にあるのでは、?と個人的ながら推測している。