2016年12号Namtheun(ナムセーウン)

*概要*

2016年8月31日に沖縄南方で発生した熱帯低気圧は発達しながら北上し、翌9月1日午前9時に台風12号になった。
その後、沖縄の東海上を北上、3日には945hPa、45m/s の非常に強い台風に発達したが、この台風は中心気圧の割にコンパクトだったのが特徴で、最盛期にはピンホール状の眼が確認された。このことは中心付近での収束が極めて大きく、中心付近で急激に風雨が強くなる事を示唆していた。実際、EYEウォールが通過した  島では最大瞬間風速48m、時間雨量128ミリの記録的豪雨を観測している。また、この台風は九州西方海上を極めて遅い5~10k/hで北上した為に、9月4日から上陸するまでの5日未明にかけて著しく衰弱し、福岡市付近から玄界灘に抜けた午前9時には熱帯低気圧に衰弱した。衰弱が早かったもう一つの理由として、台風自体が非常にコンパクトで総エネルギー量が少なかった事も推定される。4日17時のエコーでは壁雲がはっきり写っており、21時の地上天気図で見るとこの台風がいかにコンパクトであったのかが判る。
*ストームチェイス概要*
午前6時、台風は唐津市付近から対馬海峡に抜けた事をエコーやアメダスから確認した。
しかし、衰弱が著しく最大風速は18mを辛うじて維持するに到ってると思われた。
ストームチェイスを敢行するにつき地元でのBESTポイントである角島を通過する事は、ストームチェイサーとしては幸運だったにも関わらず、上陸目前で熱帯低気圧に変ったのは非常に無念であった。しかしエコー等から判断する限り熱帯低気圧としての構造は安定しており、海上で眼が再開する可能性に賭けたものの、ストームが小さい為に眼をキャッチするには15キロ以内に入る必要があると予想され、今回のチェイスはかなりハードルが高いものになった。
実際、一旦諦めて追跡を中断したが、タイムラプス画像より最終的に眼の痕跡の角島通過を確認出来た。
  
 
*午前7時50分、角島に到着するが、雲の流れも遅く熱低が至近距離に迫ってる感じではなかった。
*午前8時、1003hPa、小雨、北東の風3m。
*午前9時、台風は熱帯低気圧に衰えたらしい?。ここからおおよそ60km沖合の対馬海峡に有るらしいが、天気に変化は無く返って気圧が上昇に転じたために、眼は無いと判断し帰路に着いた。途中、道の駅でブランチを摂る事にしたが、午前10時頃、念のため衛星可視画像やエコーを見ると、なんと眼らしきものが写ってるではないか!?
急遽、来た道を引き返し再び角島へ向かった。
*10時半過ぎ再び角島へ到着したものの、11時過ぎても中心が接近する気配は一向になかったが、非常に小さい台風の場合に見られる現象らしい?
*しかし、正午より気圧が低下し始め風雨が急に強くなってきた!、エコーで見る限り中心は直ぐ沖合にあるようだ??
*12時半頃、南西の空が明るくなってきたが、展望台が視界を遮ってよく見えないのでリゾートホテル駐車場にに大急ぎで移動する。
見上げると沖合に青空を発見した!!。青空の北側を壁雲が物凄い速さで流れて行く!、蒸し暑い南風が非常に強く12mであった。
可視画像では眼の中に入ったように見えるが、実際、青空が開いたのは13時前後の一瞬で、この時、最低気圧を観測した。
しかし静穏状態には到らず眼の中には入らなかったと思われたが、事後解析により眼は角島を掠めるように日本海へ北上したことが判明した。
この台風は非常にコンパクトで中心付近の壁雲に強風帯集中し、熱帯低気圧に弱まっても眼を確認することが出来たのが特徴と言える。
以下、13h35m 13h37m 13h38m 13h39m 日本時間
        
 写真1と2は壁雲の北側を臨み、写真3と4は壁雲の南側を臨む。タイムラプス解析より、写真4の左下側が渦の中心である事を確認した。
今回のチェースによる最低気圧は12時55分に角島大橋手前にて1001.7hPa(海面校正1005.5hPa)を観測したが、気象庁の解析した1006hPaと一致した。
下の図は気圧の詳細を描いたものである。非常にコンパクトだったので、台風(熱低)と言うよりポーラローのイメージがある。
 
図は眼の中心が通過したと思われる長崎市と前原市のデータである。 
台風の速度が≒20km/sであったので、眼の直径はわずか20km程度であったと推定された。
経路図を示す、この台風は元々速度が遅く、4日は九州の南西海上で一時停滞し、その間に急速に勢力を失ったと見られる。
北部九州を経て対馬海峡に抜けた直後から一時的に西に移動してるが、事後解析では修正されていた。