小説家「たかゆき」の部屋
ここでは最近始めた小説を紹介させていただきます。

2004.12.22 第3章追加!


Tiger blues

---第壱章---

 これは一人の伝説の男のはなしである。 

 男の名は「林虎男」。51才、大手証券会社勤務のパートタイマーである。半年前から単身赴任で大竹市内のアパートでひっそりと暮らしている。虎男は小太りだ。そして愛用の丸い眼鏡と整髪料で固めた髪、虎男はよく旧五千円札の男と間違えられる。肌の色は白いが体毛は濃く足はブチ臭い。出勤時のバスでOLらしき美女の隣に着席する事が毎日の楽しみである。虎男の頭の中ではその美女の名は「まりんちゃん」。憧れのまりんちゃんの髪の香りがたまらなく好きだ。虎男は心の中でまりんちゃんに語りかける・・・「まりんちゃん、今日もすごくきれいだよ。そんなにうつむいて・・・照れなくてもいいから。こうして寄り添っている時間がいつまでも続けばいいのにね・・・」。まりんちゃん、本当は「のぶ代」である。のぶ代は虎男が原因でマイカー通勤を考えている。

 虎男はバスを降り、勤務先である証券会社のビルに入ってゆく。早速スーツを脱ぎ、虎男は作業服に着替えた。バケツを持って、先ずは廊下の雑巾掛けだ。タタタタタッ・・・・タタタタタッ・・・・両手で雑巾を床に押し付け左右の足が交互に床を蹴る。動きに一切ムダがない。これぞ虎男の真骨頂だ。廊下をピカピカに磨き上げたら間髪入れずに次の現場へ向かう。「便所」だ。今日もあちこちに散っている。ホース、ブラシ、トイレクリーナーを鮮やかに使いこなし、見る見るうちに床や便器が輝いてゆく。まばゆいばかりだ。便器が詰まっている場合は吸盤でシュコシュコやる。虎男のテクニックならば3ストローク程度で詰まりを直してしまう。

 昼休み、虎男は食堂で毎日かけうどんを食う。ズルズル・・ズズズッ・・美味い。幸せだ。ただ、話し相手がいない。暇だ。テレビを見ようにもこの角の席では遠すぎて見えない。退屈な虎男は遠くに見える瀬戸内海に目をやり、まりんちゃんに想いを馳せるのであった。

 午後の仕事は窓ガラスの掃除だ。命綱をつけてビルの外にぶら下がる。ガラス越しにはパソコンを操りテキパキとデスクワークをこなすヤングエグゼクティブの姿。虎男は強風にあおられフワフワしている。しかしそこは虎男のテクニックの見せ所。見事な雑巾ワークでピカピカに輝いたビルは大きな宝石箱のようだ。流石だ、虎男。そして窓掃除が終った頃には15時のチャイムが鳴る。パートタイマーは帰る時間だ。虎男はスーツに着替えアタッシュケースを手にバスに乗り込んで帰路につく・・・。

 虎男には南アルプス市に住む妻と二人の娘がいる。妻の名は「舞亞美」(まいあみ)(49)。虎男とは31の時に、結婚チャンスカードにより結ばれた。共通の趣味「ゴルフ」が二人を意気投合させたのだった。虎男はタイガーウッズのファン。名前からしてそうである。(林虎男) そして舞亞美は趣味がキャディー。しかし、ゴルフと日常生活はあまり関係もなく、舞亞美は次第に虎男が嫌になってくる。「ケチ」「すぐ泣く」「パンツ一丁で外を歩く」「足がブチ臭い」等の理由からである。今では絶望的に冷え切っている。娘二人は、長女が「鹿子」(しかご)(16)、次女が「New陽子」(にゅうようこ)(12)。二人とも非常にブサイクだ。鹿子のスリーサイズは(100・100・100)、New陽子に到っては(98・160・80)である。なんという事か。高校生の鹿子は「親父のようにだけはなりたくない」が口癖。New陽子は小学校の卒業の寄せ書きに「おとうさんは臭い」と記入している。

---第弐章---

 ある晩秋の朝‥‥‥
虎男は今日もいつものバスに乗り込んだ。「さてと、今日はまりんちゃんはどこの席かな?まりんちゃ〜‥‥‥!!!!」 虎男はいつもと違う光景を目にする。まりんちゃん(のぶ代)は左前側に3つほどある一人掛の座席に座っていたのだ。衝撃を受けた虎男は詮索を始める。「まりんちゃんどうしたんだろう。いつものラブシートに敢えて座らないなんて。僕と付き合っているのが乗客にばれると恥ずかしいのかな?うん、きっとそうなんだ。まったくまりんは照れ屋なんだから、こいつぅ。」虎男に笑顔が戻った。旧五千円札のある部分を山折・谷折・山折にして下から眺めた感じの笑顔が。

---第三章---

 まりんちゃん(のぶ代)とのラブシート疑似カップル体験から遠ざかる事一週間。しかし虎男は余裕の笑み(山・谷・山)だ。アパートでおかゆを食べながら虎男は思う。「まりんちゃんの照れ屋具合いは想像していた以上だ。照れて顔をこっちに向けられない所も可愛いけど、二人のこれからを思うと更にステップアップしないといけないかな。まりんちゃんは今胸キュンだから僕をまっすぐ見る事ができない。少しずつ、少しずつ、僕等は近付き、そして結ばれるんだよね。まりんちゃんのその願いを僕も叶えたいと思っている。そのために、まずはスキンシップが必要かな。緊張をほぐしてあげないと。そうだ、明日のバスで体を触ろう!肌と肌が触れ合えばまりんちゃんの緊張もきっとほぐれるはずだ。よ〜し、明日も生きる意欲が沸いてきたぞ。まりんちゃんありがとう。お・や・す・み」虎男は今日も風呂に入らずそのまま畳で寝るのだった。