鋼の錬金術師

鎧の中の…

病室のドアを勢いよく開けて、ウィンリィが飛び込んできた。
「エド、大怪我だって!!」
「いや、たいしたことは…」
ウィンリィはホッと安堵のため息をついた。
エドの顔は殴られて出来た痣や腫れで酷いありさまだが、機械鎧は無傷だとわかったからだ。
「で、誰にやられたの?。スカー?。グリード?。それとも…」
「イズミ師匠にだ。俺ぁなんにも悪くないよによ。アルのとばっちりでな」
エドはブスッとした顔で答える。
ウィンリィは、ベットの横にいるアルをジロリと睨んだ。
「ボクだってトバッチリだよ」
       
        ∵
可愛い子猫や子犬が、飼い主を窮地に追い込むことなどありえない。

  そのとき、僕らは、そう信じてた。

    その瞬間まで。

        ∵
 その日、エドとアルの二人はイズミ師匠の買い物につき合わせられていた。
 10代から20代前半のヤング向けファッションの店に入って、嬉々として服を選んでるイズミ。
 エドとアルは店の外で、イズミが出てくるのを待っている。
 買ったばかりの服に着替えて「どうだ、似合うか?」二人にそう聞くのがイズミの癖である。

「おい、アル」
「なんだい、にいさん」
「お前、どこかに犬隠してねえか?」
「ハハハ、バレた?」
「ああ、捨て猫や捨て犬を拾ってくるのは、お前の癖だからな。で、どこに隠してるんだ」
「鎧の中だよ。兄さん」
「ちっ、またか」「……、ところでアル。昨日拾ってきた子猫は、もう引き取り手が見つかったのか?」
「いや、まだだよ。それも鎧の中に…」
「ふ〜ん、二匹共鎧の中か」「ん?。おい、それ、ちょっと拙いことにならないか」
「大丈夫だよ。二匹共仲良しだから、喧嘩なんかしないよ」
「馬鹿、そうじゃなくて」

その時、思いっきりコテコテの若作りファッションで装ったイズミ師匠が、店から出てきた。
「二人とも、またせたな。どうだ、似合うか?」
 まるでファッションモデルのように、ポーズをとるイズミ。
「は、はい、とっても…」
その時、アルの鎧の中で、ごそごそっと何かが動く音がして、
次の瞬間、



「ニャァ-」「ワン」

鎧の中で、二匹が鳴いた次の瞬間、
問答無用で、イズミの鉄拳が二人にむけて行使された。

            <END>2004.6.20

マスタング大佐の大人電話相談室


電話相談・1回目

大佐「何、付き合ってる彼女と別れたいだと?」
大佐「その彼女、美人か?。どんなタイプだ?」
ぐっと身を乗り出した大佐だか、相談者の話を聞く内にすぐにいつものやる気のない顔に戻る。
相談者「…で、服とかアクセサリーとかを贈ると、そのお礼をしたいって口実で誘われるんです」
大佐(この優柔不断男め…)
相談者「その時必ず、その贈ったものを身につけて来てるんです」「この前なんか、冷房のよく効いた図書館で待ち合わせしたのに、ビキニの水着姿で来たから…」
大佐「ふむ。いわゆるナントカの深情けだな」「よし判った。なら何も贈らなければ、会う口実も出来ないだろう」
相談者「でも、贈るって約束させられたんです。しかも、ボクの彼女に対する気持ちを形にした物をって」
大佐「よし、わかった。では、中身が何も入って無い空箱を贈りたまえ。それでケリがつく」

電話相談・2回目
大佐「何?。でっかい箱が届いただと…。それで何を相談したいんだ?」
相談者「その箱の中から、例の彼女の声が…」

        <END>2004.8.12

天国のヒューズさん

え〜、私、印田ピュー子は天国にいるヒューズ準将と出会うことが出来ました。
今日は絶対に留守だと思ってましたが、来てみてよかったです。
では、さっそくインタビューにいってみたいと思います。

「では、さっそくですが、ヒューズ準将」
「おい、その准将ってのは止めてくれ。俺はもう軍の人間じゃないんだから」
「そうでした。ここは下界ではありませんでした。では、改めて、ヒューズさん。って呼んでいいですか」
「ああ、それでいい。で、何が知りたい」

「では、下界でのマスタング大佐とエドとのやりとりですが…」
「マスタングが『なぜ保護を求めない』って言ったやつか」
「そうです」

「あれは、イシュバールの内戦の時だった。マスタングに、ロックベルって名の医者夫婦の捕獲命令が出たんだ。しかし、マスタングは二人を逃がそうとした。二人に、戦場から遠く離れた場所に逃れ、そこに身を隠すように説得したんだ。しかし、二人は拒んだ。今、目の前にいる怪我人を捨てて逃げるわけにはいかないと…」

「マスタングは二人に銃口を向けた。無理矢理にでも、診療所から立ち去らせるつもりだったんだ」「しかし、その時マスタングが周囲を見回すと、診療所は完全に取り囲まれていた。そして、ロックベルは、彼にこう言ったんだ。『撃ちなさい。撃たないと貴方の身までも危険に晒される』ってな」

「そして、マスタングは二人の命を奪った。二人の命と引き換えに、マスタングは出世の階段を昇ったんだ」「過去に奪った二つの命。それが彼に、あのエルリック兄弟を助けてやれ。彼らの力になってやれ。そう訴え続ける」「あの言葉は、マスタングの言葉でもあるが、ロックベル夫婦の言葉でもあるのさ」

(NEXT ?)2004.8.15

天国のヒューズさん・パート2

え〜、ヒューズさんへのインタビューは3日間にわたり続きましたが、途中の内容は省略。この日記の記入者が、すっかり書き忘れちゃって。

「たいへん長い間つきあって頂いて、ありがとうございました」
ヒューズ「いゃぁ、何か知らんけど、ちょうど暇だったからな。不思議なことに、訪ねてくる人もバッタリと止まったし、町に出ても、どこの店も閉まってるし。なんか、この天国全体が休業中って感じでな」
「えっ、もしかして、ヒューズさん。知らなかったのですか。お盆だったこと」
ヒューズ「ん?。そのお盆って何だ?」
「ほら、死んだ人が3日間だけ下界に里帰りする期間だって」
ヒューズ「…」
「ヒューズさんの事だから、てっきり下界の奥さんや娘さんに会いに行ってらしてると思ってましたが…。あれ?。もしかして、ヒューズさん、お盆って知らなかったとか…」
ヒューズ「日本人でもない俺が、そんな事知るか!!」
 
 次の瞬間、オリンピックの短距離選手並のスピードで、下界への出入国管理局に向かうヒューズの姿があった。
 とっくにお盆は終わってるのに…。

 ヒューズさん。来年こそ、奥さんや娘さんに会いに帰れますように。
              <END>2004.8.18


ボイン  10巻より


マスタンク「シャン、お前は特に騙されやすいからな。いいか、ボインも駄目だぞ」
シャン「駄目っすか?」
マスタンク「当たり前だ」「お前に限り、ボインも禁止だ」
シャン「なぜ、どうして俺だけ…」



マスタンク「当たり前だ」「実印だろうが、拇印だろうか、捺印することに変わりないだろ!!」「いいか、悪質商法に引っ掛からないためには、絶対にハンコを押しては駄目だ」

以上、マスタンク大佐の常識講座でした。

2005.3.17

第13番倉庫の白骨

これは、怠け癖のあるロイ・マスタング大佐が、
第13番倉庫の謎を解明する調査に参加しなかった世界の物語である。

「なに、倉庫街の空き地で白骨が見つかっただと?」
白骨は、その空き地で遊んでいた子供たちに発見され、アーチゃー中佐の手を経て、
大総統に報告された。

「ふ〜む。あそこもいろいろあった処だからな。古い白骨の一つや二つ…」
「いえ、白骨は比較的新しいものだったという報告です。それより問題は、その白骨が死後に非常に高い温度にさらされているという点です」
 アーチャー中佐は、ニヤリと口元を歪めた。

「高温か…」
「はい、まるで焔で焼かれたように…」
「ふむ。焔といえば…」
「マスタング大佐は、焔の錬金術師という二つ名をお持ちだそうで…」
「なるほど、彼が失脚すれば、君がその後釜に座れるというわけか」
「いえ、そういうわけでは…」

「…しかし発火能力を使う錬金術師は、大佐だけではないぞ。確か君のところにもいるな。紅蓮の錬金術師という二つ名の男が。大佐よりも彼の方がより怪しいのではないかね。もし、そうであれば、彼を庇護している君の立場も、ちと怪しくなってくるのではないか」
 大総統はアーチャー中佐に背中を向けているが、目が笑ってる。
「さて、私が直々に調査に乗り出してみるかね」
「いえ、それには及びません」
アーチャー中佐は、慌てて辞退した。

アーチャー中佐が退席したあと、大総統は、それまで目を通していた報告書をふたたび取りあげた。
そこには、こう書かれていた。

空き地で発見された白骨についての報告書。

種類・牛骨。一般に犬の餌として出回っている肉に含まれるものであり、出荷時に高温による
殺菌処理をされたものである。

「ったく将校の癖に、人骨と牛の骨の区別がつかないほどの無能な奴が、我が軍の中にいるとはな」
大総統がそうボヤいていた頃、別の平行宇宙では、ロイ・マスタング大佐がクシャミを連発していた。

2004.6.28

☆はがねぇの錬金術師☆

「貴方の歳で、国家錬金術師というのは、例外中の例外だ」
 マスタング大佐は、うかない顔で拝命証を手渡した。
「二つ名は自分で確認してくれ」

 新たに国家錬金術師となった男は封筒を開けて、
書類の文字を読んだ。
男「二つ名は、はがね…ですか?」

大佐「鋼はエドワード・エルリックだけで充分だ。
よく見ろ。貴様の二つ名は、歯がねぇの錬金術師だ。」
「ったく、歯が一本残らず抜けおちるほどの高齢で、試験に合格するとはな」

2006.4.11