松戸博士のタイムマシン
「究極のタイムマシンが完成した」
連絡を貰った私は、さっそく松戸博士の研究所を訪ねた。
いままで長きに渡って研究費用を提供してきた成果を、やっと手にすることが出来る。
「これがそのマシンかね」
「そうです。このマシンは時間の果てまで移動することができます。さっそく動かしてみましょう」
松戸博士がスイッチを入れると、マシンはいかにも発明されだばかりの機械っぽい音を発し…。
そして、止まった。
「失敗?」
「いや、間違いなくこのマシンは今、時間の果てに移動しました」
松戸博士は、一枚のテキストを取り出した。
「時間の輪理論によると、時間を図に表すと円になっている。つまり、もっとも遠い未来は現在、もっとも遠い過去も現在ということだ。つまり、時間の果て、すなわち、今、ということです」
松戸博士の口車に乗せられた私は、タイムマシン2号機制作の費用援助を約束させられた。
そのかわり、今度こそ、到達する時間を指定できるようにという条件もつけた。
いつ完成するのか、その回答は得られなかった。
松戸博士の研究が続く限り、私はその費用を負担する運命にあるらしい。
私は、肩を落とし、松戸研究所を後にした。
今日は、もう一箇所、寄るところがある。
そして、私は次に市役所の年金課を訪ねた。
いままで長きに渡って年金を納めてきたが、ようやく貰う側になった。
その手続きのためだ。
窓口に行き、担当職員を見たとたん、嫌な気分になった。
その顔が、松戸博士そっくりだったからだ。
私は、いままで払い続けてきた金額に見合うだけの年金を貰えるのだろうか。
なにか、また新たな負担を強いられるのではないか。
例えば、高齢者医療保険といった名目で…。
終り 2008.8.15