伝書鳩アーサーの受難。

小屋から飛び出して目的地に向う伝書鳩を、俺は麻酔銃で射ち落とした。
俺は、その鳩の足首についている認識票を外すと、用意してきた別の鳩に取り付けて放した。
「よし、この身代わりの鳩をこの次に奴らが使うと、鳩はそのまま我々の元に重要書類を運んでくれる。ふふふ」
俺が放した身代わり鳩は、真っ直ぐに元の小屋を目指して飛んで行った。

しかし、作戦は失敗に終った。身代わりの鳩が伝書鳩として使われることは二度となかったからだ。
なぜだ。
そう問う俺に、上司は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
「たった一度でも、Uターンして元の小屋に戻ってくるような役立たずの伝書鳩に、次の仕事が与えられるかね」

そう、情報戦争の最前線は、きびしい世界だ。
一度でもミスをしたら、二度とそいつには仕事は回ってこない。
そういえば、その時以来、私にまわってくる仕事は、ひとつも無い。

 2005.11.7