クリスチャンは全員「使徒」か

「クリスチャンは全員『使徒』である」と教えている人々がいますが,これは聖書的には間違いであることを説明してみます。 まず,キリストの使徒であるパウロ自身によって否定されている証拠を挙げておきます。

神は教会の中に,第一に使徒たち,第二に預言者たち,第三に教師たち,そして力あるわざ,そして癒やしの賜物,援助,管理,種々の異言を備えてくださいました。
皆が使徒でしょうか。 皆が預言者でしょうか。 皆が教師でしょうか。 すべてが力あるわざでしょうか。
皆が癒やしの賜物を持っているでしょうか。 皆が異言を語るでしょうか。 皆がその解き明かしをするでしょうか。
(『聖書 新改訳2017』コリント人への手紙 第一 12章28~30節)

この聖句によると,「使徒」と呼ばれる人々は,預言者や教師や力あるわざ(奇跡)を行う人々などと同様に,神から特別に召命を受けた限られた人々である,ということになります。 よって,クリスチャン全員が「使徒」であるという教えは間違っていることが分かります。

しかし,次のような反論をする人々がいます。 「使徒」(ギリシア語で「アポストロス(ἀπόστολος)」)とは「神から遣わされた人」のことであり,クリスチャン全員がまさにそうである,という教えです。 しかし,これは聖書的な理屈ではありません。 確かに,クリスチャンは神から恵みによって救われ,召された群れであり,まだ福音を知らない人々に福音を宣べ伝える使命を神から与えられた者です。 また,ギリシア語の「アポストロス」には「使節」「使者」「派遣されたもの」という意味があります。 そういう意味では,クリスチャンは「神から遣わされた人」であり,「使徒的」だとは思いますが,新約聖書で使われている「使徒」という言葉の使われ方や,主イエスが用いられた「使徒」という言葉の重要性を考えると,「クリスチャンは全員『使徒』である」という教えは間違っていると言わざるを得ません。 このことは,パウロの書簡(ピリピ,テサロニケ,ピレモン以外)の書き出しを読んでみても分かります。 つまり,パウロは自分自身のことを,神によって召された「使徒」と呼び,「使徒」としての条件(後述参照)を満たさない他の弟子たちを「使徒」とは決して呼ばず,単に「兄弟」とか「聖徒」と呼んでいるのです。 パウロの主張が正しいことは,次の聖句によって証明されます。

私はキリストにあって真実を語り,偽りを言いません。
(『聖書 新改訳2017』ローマ人への手紙 9章1節)

新約聖書を誤りなき神のことばであると信じるならば,パウロのこの言葉も正しいと信じるべきです。 ゆえに,クリスチャン全員が「使徒」であるという教えは,聖書的には間違っていることになります。 実際,主イエスは,そのような教えはされませんでした。 それは,ルカの福音書を読めば分かります。

そのころ,イエスは祈るために山に行き,神に祈りながら夜を明かされた。
そして,夜が明けると弟子たちを呼び寄せ,その中から十二人を選び,彼らに使徒という名をお与えになった。
(『聖書 新改訳2017』ルカの福音書 6章12~13節)

この聖句を読むと,主イエスは,(何人かは分かりませんが,)たくさんいた弟子たちの中から12人を特別に選んで,彼らに「使徒」という名を与えられたことが分かります。 決して,弟子たち全員を「使徒」と呼んだのではないことが分かります。 これは今も適用されます。 クリスチャンが全員「使徒」というわけではないのです。 これが主イエスの言われたことです。

また,ジョン・R・W・ストット著/舟喜順一・岩井満訳『聖書理解のためのガイドブック』(改訂12刷,聖書同盟,2010年)には,このテーマについて詳しく書いてありますので,要約して載せておきます。

新約聖書の使徒という呼称を調べてみると,ほぼ現代の宣教師にあたる者「教会の使徒」と言われる人々はあるが,(IIコリ8:23,使13:1-3,14:14,ピリ2:25),「キリストの使徒」は,12弟子,(ユダの代わりの)マッテヤ,パウロ,主イエスの兄弟ヤコブと,あとたぶん2,3人からなる,小さな限定された人々の集まりであることがわかる。教会全体は主が計画された宣教を遂行するために,世の中に送り出されているという意味で使徒的だと言えるし,この任務はすべてのキリスト者の果たすべきことであるが,新約聖書においては,「使徒」はキリスト者一般をさすことばではない。忠実で信頼できるパウロの同労者テモテさえも使徒とは呼ばれなかった。パウロは自分と同労者との間に,この点では明白な区別をつけていた。
…(中略)…
テモテはパウロの兄弟であった。すべてのキリスト者は確かに兄弟姉妹である。しかしパウロと違ってテモテはキリストの使徒ではなかった。
(ジョン・R・W・ストット著/舟喜順一・岩井満訳『聖書理解のためのガイドブック』改訂12刷,聖書同盟,2010年,249頁)

聖書が明白な区別をしているのですから,聖書の権威を信じるクリスチャンも明白な区別をつけるべきです。

また,この本には,キリストの使徒が持つ4つの特徴(条件)についても書かれています。 それらは次のようなものです。 第一に,使徒たちはそれぞれ主に召され,主から権威を授けられた。 第二に,使徒たちはキリストを実際に見た経験を持っている。 第三に,使徒たちは聖霊の特別な霊感を受けた。 第四に,使徒たちは奇跡を行う力を与えられていた。 以上の4つの面で,使徒たちは他の人々と違っているようである,と述べられています(上掲書250~254頁参照)。

使徒たちの権威が特別だったから,新約聖書に神のことばとしての権威が認められるのです。 クリスチャンは,聖書に基づいた正しい知識を身に付けるべきです。 聖書と合わない教えに惑わされないように,聖書をしっかり学びましょう。

2019年6月16日更新
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