聖書の神の御名は

はじめに

旧約聖書の原典であるヘブル語聖書にはいくつか神の御名(みな)が出てきますが,ヘブル語聖書中に5000回以上も登場する神の固有名詞で,「神聖四文字」とか「聖四文字」と呼ばれている4つのヘブル文字「יהוה」は,そもそも何と発音するのでしょうか。 この発音について誤解している人たち(特にエホバの証人)がいますので,以下に,神聖四文字の発音について簡単に説明したいと思います。

神聖四文字の読み方について

聖書の神の御名を冒瀆(ぼうとく)することを恐れたユダヤ人たちは,聖書の中で神聖四文字「יהוה」が出て来たら,必ず「アドナイ(わが主)」と読み替えることにしました。 この決まりは,十戒(じっかい)の「あなたは,あなたの神,の名をみだりに口にしてはならない」(出エジプト記20:7)という戒めが拡大解釈されてできたものです。 しかし,エルサレムの神殿が破壊された紀元70年以降は,正式な読み方が分からなくなってしまいました。

ところが中世初期になって,マソラ学者と呼ばれる人たちが母音記号を発明しました。 その理由は,子音文字だけのヘブル語に母音記号を付けることによって,別の単語と読み間違えないようにし,聖書のみことばを正確に読ませるためでした。 その際に,神聖四文字にも母音記号が付されました。 どのような母音記号を付けたかと言うと,聖書本文を変えるわけにはいかないので,当時既に定着していた神聖四文字の読み方「アドナイ(אֲדֹנָי)」の母音記号を「יהוה」に付けました。 その結果,「יְהֹוָה」という表記になりました。 (聖書によっては「יְהוָה」と表記されています。) これは,神聖四文字を「アドナイ」と読ませるための工夫でした。 (אに付く複合シェバー( ֲ  )は,喉音以外の子音に付くとシェバー( ְ )になります。)

1520年にGalatinusという人(イタリアの神学者でフランシスコ派の修道士)が,この神聖四文字「יְהֹוָה」をそのまま「イェホヴァ(Jehovah)」と発音し,著書の中で発表しました。 彼は「יהוה」という文字に,別の単語「アドナイ(אֲדֹנָי)」の母音記号をマソラ学者が付けたという事実を知らなかったのです。 これが,神聖四文字が「エホバ」と読まれるようになった原因でした。

日本聖書協会から発行されている文語訳聖書では,神聖四文字を「ヱホバ」と表記していますが,上記で説明したように,現在ではこの読み方は誤りであるとされています。 最近では「ヤハウェ」と読む説が主流になっています。

※ 母音記号が「יְהֹוָה」ではなく,「יְהֹוִה」(または「יְהוִה」)となっている場合があります。 この時は「エロヒーム(אֱלֹהִים)」(神)と読み替えます。 神聖四文字「יהוה」の直前に「アドナイ(אֲדֹנָי)」という単語がある場合に現れ,「アドナイ・アドナイ」ではなく,「アドナイ・エロヒーム」と読み替えます。 その一例をヘブル語聖書のイザヤ書7章7節前半から引用しておきます。

(原文)כֹּה אָמַר אֲדֹנָי יְהוִה
(読み)コー・アマル・アドナイ・エロヒーム
(和訳)である主はこう言われる。(『聖書 新改訳2017』)

参考文献

2019年4月17日更新
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