The Story of Art Gallery Coffee shop Memories

 51.すみれ色の湖
 目次
 歩み寄るふたつの心。
 いつしか目に見えぬ糸で結ばれ。
 やがて繋がる想い。
 確かめ合う優しさ、包み込む思いやり。
 それは、心を繋ぐ暖かい絆へと。
 しかし、互いの鼓動は、まだ届かぬ場所に――。

「と・う・こ・ちゃん!」
 茶館の古い木製の扉を、ふいっ! とすり抜けた遙は、ふと感じた違和感に眉根を寄せた。手をかざし、店内のテーブル席の様子をぐるりと見回す。
「今日は静かね」
 近頃、急に賑やかになった茶館だが、不思議と今日は店内に客の姿がない。そんな事を考えていた遙は、腰に手を当てて首を捻った。
 ふと思う、何かが足りない。
「あ!」
 ようやく気が付いた。
 瞳子の「いらっしゃいませ!」が聞こえない。不思議に思ってきょろきょろすると、カウンターに突っ伏している瞳子の姿が見える。
「と、瞳子ちゃん!」
 慌てて側に駆け寄ってみると規則正しい寝息が聞こえる、どうやら瞳子は眠っているらしい。
「あらあら、不用心だこと……。まぁ、私がここに居る以上は心配ないけど」
 安堵と共に肩をすくめた遙は、椅子を寄せて瞳子の隣にそっと腰掛けた。ゆっくりと足を組む、柔らかそうな裾の長いスカートがふわっと落ち着く。
 瞳子の寝顔を覗き込み苦笑した遙は、頬を濡らしているひとすじの涙に気がついた。
「……瞳子ちゃん」
 遙は小さな溜息を漏らす。
 無理もない、人の心はそんなに器用に出来ている訳ではないからだ。少しずつ薄れつつあるのだろうが、瞳子は大切にしていた想いを失っているのだから。
 自分がもし生きていたのならと、遙は表情を曇らせる。ほんの少しだけでも、瞳子の想いを肩代わりしてやる事は出来ないだろうか?
 瞳子の背を優しく撫でていた遙は、ひとつの決心をした。
「でも、こんな体で出来るのかしら」
 つぶやいて静かに栗色の瞳を閉じる、瞳子の肩にそっと手を当てて膨らませるイメージ。少々不安だったが、自分の中にアトリエの扉が浮かび上がった。
 絵の手ほどきを受けた、師の教えによって知り得た場所。懐かしいアトリエの扉を押し開いた遙は、首を巡らせ、瞳子の心である風景をアトリエに投影した。

 見開いた栗色の瞳に映るのは生い茂る木々。
 先を見渡せば、豊かな緑に囲まれた大きなすみれ色の湖が静かに広がっている。
 遙の体を包み込むのは透明で、とても澄んでいる空気。静かな空間には薄い霧が立ちこめ、霧雨よりも細かな水滴がシャワーのように頭上から降り注いでいる。
 身を委ねてしまいそうになる安らぎ、遙はそっと息を吐いた。
 優しい、とても優しいその景色の淡い色合い。その場に佇む遙の存在をすべて包み込んでくれる温かさ。
 この景色を描いてみたい、遙は純粋にそう感じた。
 イーゼルを立て、大きなキャンバスを置いて心の赴くままに……。
 そんな、美しい風景だ。
 遙はゆっくりと、湖畔に茂る草の中を歩く。微かな草の匂い。足に絡み付くこともなく、遙が歩みを進めるとともに自然に道が開けていく。湖のほとりに近づ いてしゃがみ込むと、水面を覗き込んだ。鏡のような水面を乱さぬように、そっと水に手を差し込む。その瞬間、様々なイメージが遙の中に流れ込んで来た。
「これは……」
 心の中へと流れ込んで軽やかに舞うイメージから、ただひとつを感じようとする。
「あなたは、誰なの?」
 誰かが瞳子に呼びかけているのを感じる、遙は大きな湖の中心に目をやった。広い広い湖に、風による波が微かな音をたてて岸へと押し寄せてくる。その波紋 はあまりにも弱く、とても瞳子の心に届かない。だがまるで海のように、瞳子が胸に抱くの悲しみを連れ去るがごとく、寄せては返す波。
 しばらく続いていた微かな波紋は、次第に薄れて消えてしまった。
「まさか……」
 遙の栗色の瞳が、驚愕に見開かれる。 
「なるほどね……。私があれこれ考える事じゃないか」遙は、ぺろっと舌を出す。
 張り巡らされた縁の糸は、細く細く頼りない。無数に絡まり、複雑な模様を描いて未来へと続いている。その運命はまだこの先、どうなってしまうのかも分からない。
 飽くこともなく、遙が静かな水面に映る自分の表情を見つめていると。
「そんなに身を乗り出すと、湖に落っこちるわよ」
「えっ?」
 涼やかに響く声が耳朶を打つ。
 遙が驚いて水際から身を引いた瞬間、静かな湖面に細波が起こった。渦巻く空気の流れに濃い霧が吹き散らかされたかと思うと突然、高く高く幾本もの水流が吹き上がる。
 水流は螺旋となり、ひとつの大きな水柱へと姿を変えた。
 重力に引かれて空中に吹き上げられた飛沫が落下を始め、淡い光が反射するその煌めきの中に、遙の師である黒衣の画家、瑠璃子の姿が浮かび上がった。
「せ、先生っ!」
「はい。久しぶりね、遙」
 右手をさっと振って、身にまとわり付く飛沫を霧に変えた瑠璃子が、ゆっくりと地面に降り立った。
 つばが広い帽子を目深に被り、黒い外套の裾を翻してゆっくりと歩いてくる。
 唇を引き結んだ固い表情。涙を堪えているようであり、また怒っているようでもある。
 霊界の亡者とも言える遙は、自らの存在を思い身を堅くした。遙と瑠璃子とは正反対の存在。師弟ではあるのだが、今は狩る者と狩られる者ほどの違いがあるのだ。
 だが、瑠璃子は両手を伸ばすと、言葉を失っている遙をいきなり抱きしめた。
「私に何の断りもなく、勝手に遠くへ行くなんて。会いに来るのに、どれほどの苦労しなきゃならないと思っているの?」
「……先生」
「私を置き去りにするなんて、この馬鹿弟子。やっと、やっとつかまえた」
 瑠璃子の声が微かに震えている。息が詰まるほどきつく抱きしめられている遙は、体の力を抜いて瑠璃子の黒い外套に顔を埋めた。しばらく遙の栗色の髪を撫でていた瑠璃子は抱擁を解き、遙の両肩に手を置くと膝を屈めて顔をのぞき込む。
「遙、会えて良かった」
 柔らかな眼差しの瑠璃子が、そっと微笑んだ。
 くすりと笑って右手を上げ、ちょんと遙の額をつつく。
「せ、先生。どうしてここに? ここは、あの……」
「分かっているわ、瞳子ちゃんの心の中よ」
「瞳子ちゃんを、ご存じなんですか?」
 興味深げに周囲を見回してさらりと答えた瑠璃子に、驚いた遙は栗色の瞳をいっぱいに見開いた。
「私が辿った縁の糸の通りね、あの光はあなたが身に纏う優しさの光だもの」
 瑠璃子の黒い瞳が、困惑している遙を映している。風で乱れた黒髪を手で梳いて、霧で冷えた手のひらをそっと頬に当てた。
「私は、高校生だった瞳子ちゃんに会った事があるわ。悲しみを湛えていても、優しさを忘れない紫色の瞳に魅せられた」
 やや表情を引き締めた瑠璃子は、ため息とともに語った。言葉を切り、一度視線を泳がせて思索に耽ったあと、決心したように再び紅く彩られた唇を開いた。
「遙、あなたも分かっているんでしょう? 瞳子ちゃんの父親は……」
「はい」
 遙は両手を胸の前で、ぎゅっと握り合わせてこくりと肯く。
「……父親は、パステルですよね」
「その通り」
 良く出来ましたと、瑠璃子が表情を和らげる。
「瞳子ちゃんのお母さんは、叶さんという名の女性。柔らかな雰囲気の絵を描く画家さんでね……。あの子は間違いなく、二人の娘よ」
 瑠璃子は祈りを捧げるように、瞼を閉じて瞑目する。師の仕草でその運命を察した遙の前髪を、微かな風が揺らす。
「私でさえ、危険を冒して空間を渡らなければならない。まして普通の人間が、彼の店がある空間に留まることは出来ない。別れは身を切られるほどに辛かったのでしょうね」
 瑠璃子の厳しい視線の先には、遙の知らない世界がある。今までどれだけの時を渡り歩いて来たのだろう。心のキャンバスに、どれだけの想いを描き留めたのだろう。
 遙は瑠璃子が旅をしてきた、長い長い時間を思うと気が遠くなった。
「パステル……」
 今でもはっきりと覚えている。遙はただ一度だけ、偶然に不思議な画材店に迷い込んだことがある。その時に瞳子の父、パステルと出会ったのだ。
 銀色の髪に整った顔つき、瞳子と同じすみれ色の瞳。パステルの物静かで柔らかな笑み、彼の面影を瞳子に感じる。瞳子は父親にとてもよく似ている、姿形も心のありようも。
 時の狭間ともいえる空間に、なぜ彼の不思議な画材店が存在してるのか、なぜ彼があの画材店を開いているのか遙には分からないが。
 その画材店に置かれている絵の具には、この世界に溢れているありとあらゆる色がチューブに収められている。
 ほんの偶然から、彼の画材店を訪れる絵描きがいるという、遙もその一人だった。
「少し歩きましょう」
 瑠璃子がそう促す。
 おぼろな光の中に存在する、どこか寂しげな風景。それは瞳子が両親の顔、二人の愛情と温もりを知らないから。いや、幼い頃に瞳子が感じていたすぐ側にあった感情は、寂しさと悲しみばかりだったのだろう。
 二人が歩みを進めると、程なく霧の中に大きな古城が見えてきた。
 濡れた白い城壁には蔦が絡まっている、それは乙女が夢見る華やかな城の姿ではない。見上げるほどの門は、来訪者を招き入れるように大きく左右に開かれている。門をくぐって中に入ると長い細道をゆっくりと歩き、城のエントランスに辿り着いた。
 城内はやはり静かだ。天井に吊られた幾つものシャンデリアが、柔らかな光を放っている。
 くるりと振り返り、瑠璃子は今来た道を眺める。
「何者をも遮ることがない緩やかな小道、瞳子ちゃんの人懐っこい性格そのままね。落ち着いた色彩でまとめられた古城のイメージ、派手な衣装は趣味じゃないのね」
 整然と立ち並ぶ燭台で、ゆらゆらと揺れている炎。壁面を飾るのは、茶館の壁に飾られている絵と同じ作品だ。遙は茶館に飾られている絵について、瞳子に話 して聞かせている。その話を瞳子は真剣に聞いてくれているらしい。嬉しさと瞳子への愛しさがこみ上げて、遙はそっと涙を拭った。
 瑠璃子は絵の額にそっと指を触れて、眼差しを和らげると静かに踵を返す。
「行くわよ、遙」
「あ、は、はい!」
 返事をした遙は、慌てて瑠璃子の後を追った。
 ゆっくりと歩く師の背中を見つめながら歩く、当たり前の事だが、大きな背中ではない。でも、と遙は瑠璃子の揺れる黒髪の動きを目で追う。
 側にいるだけで安心してしまう、どんなに奔放な振る舞いに巻き込まれても、許せてしまう。
 ……しかし、そんな頼りになる師の口から、信じられない一言がこぼれた。
「私はね、彼女の瞳を封じようと思うの」
 その言葉に驚いた遙が歩みを止めた。しかし瑠璃子は構わずに、長い回廊を歩き古城の中庭へと出た。
 地面はしっとりと湿り、葉に溜まる雨粒の重みで草は皆、頭を垂れている。ゆったりと漂う霧、静かな風景には重苦しさなど感じられない、とても美しい庭園だ。
「私はあの瞳の力を危惧している。実際、私が彼女の体に忍ばせた存在の一部が、役に立ったようだしね」
 振り返った瑠璃子が、遙を手招いた。
「あなたも、覚えているでしょう?」
「はい」
 遙は固い声で答えた。
 心を通わせながらも結ばれることなく、儚く消えた二人の想いを忘れられずにいた一枚の絵に宿った心が、その想いを現実のものにしようとした。
 高台での出来事を、あの嵐の夜を忘れる訳がない。唇を噛んだ遙はそっと俯いた。
 瞳子の元へ駆けつけるのが、もう少し遅かったらどうなっていたか。それを考えると体が震えてくる。
 叶わぬはずの願いが果たされ、大きな力に歪められた時間の流れは乱されて、世界の理と秩序の天秤は平行を失っていただろう。
「先生!」
 瑠璃子の言葉に、師の判断に間違いはない。
 しかし、遙は思わず叫んでいた。
「お願いです、それだけはやめて下さい」
「出来ない相談ね」
「そんなっ!」
 遙の縋るような願いを、瑠璃子はぴしゃりと遮る。
「彼から……パステルから譲り受けたあの瞳は、瞳子ちゃんにとって大切なものだと思うんです。瞳子ちゃんにとって、唯一残された親子の絆なんです。それを奪うなんて!」
 両手を固く握りしめた遙は、胸を張り決然とした表情で、強大な力を持つ師を睨み付けた。萎えてしまいそうになる心を、懸命に叱咤する。
「私がさせません! たとえ、相手が先生でも」
「ちょっと待ちなさい、私を悪者みたいに言わないでくれるかしら?」
 苦笑混じりの師の言葉に、遙は口を引き結んで答えない。
 瑠璃子と遙の間に滞留する空気が、ぎしりと音を立てるように軋んだ。精一杯の虚勢を張る遙の目の前で、艶然と微笑んでいた瑠璃子の表情が温かみを失う。
「そう……。いい度胸じゃない、この私とやり合うつもりなの? あなたは私がどんな存在なのか、何を為すために存在しているのか、よく分かっているはずよね」
 瑠璃子が纏う空気の温度が急激に低下するのを感じ、遙はぐっと両手を握りしめる。
 黒衣を纏う画家。
 瑠璃子の黒髪がざわりと揺れ、すうっと細められた瞳が妖しく輝く。外套の裾を跳ね上げると、瑠璃子は左手を水平に伸ばした。
 空に向けられた掌へと、光が瞬きながら収束していく。
「もう一度聞くわ」
「な、何度聞かれても同じです!」
 瑠璃子が掲げた掌が、いよいよ輝きを増す。
「これで最後、覚悟はいいのね?」
「ぜ、絶対に負けません!」
 遙は震える声で、瑠璃子の最後通告を突っぱねた。強大な力を持つ師を相手に勝算など欠片も無いが、ここは決して引けない。
「せっかく会えたのにね……残念」
 瑠璃子はあっさりと、光を湛えた左手を軽く振った。解き放たれた光は煌めく尾を引き、遙に向かって一直線に飛ぶ。その一撃を受ければ、儚い魂の存在である遙の姿は塵となって消えてしまうだろう。
「逃げるもんですかっ!」
 遙は栗色の目を見開き、迫り来る光球を睨みつける。逃げることも、体を庇うこともしない。頭の中で目まぐるしく思考が回る、瑠璃子が放った光球が遙を飲み込もうとした瞬間だった。
 ぽん! と、音を立てて、凶弾ともいえる光球が消え去った。
「え? えええっ?」
 訳が分からずにぽかんとする遙。目の前では師が、腕を高く掲げていた。
「この馬鹿弟子は、ほんっとに分からずやなんだから」
 瑠璃子が綺麗な形の唇を、への字に曲げる。
 どうやら助かったらしい、二度も冥府の扉を叩くところだった。
 遙へと放った光弾をあっさりと掻き消し、大きなため息をついた瑠璃子が、ゆっくりと歩いて来る。
「ごめんなさい」
 遙は師へと素直に詫びた。
 非礼は承知の上だ。しかし決して譲れない、そのひとひらの想いがある。
「この風景に溶け込んだ色々な想いを感じました、未来へと時を刻む針が動き始めたんですよね? 先生ったら、すぐにご自分を悪者にして」
「……バレたか」
 瑠璃子はバツが悪そうに、ぺろりと舌を出してみせる。
「貴女は変なところで鋭いのよね。これじゃあ、ホントに道化者を演じただけじゃないの、馬鹿馬鹿しい」
 何やら機嫌が悪そうな瑠璃子が、ぶつぶつとこぼしている。そんな師を見つめて遙がくすくすと笑っていると、帽子のつばを指先で撫でた瑠璃子が表情を改めた。
「もうすぐ風が旅立つわ、それは貴女にも分かっているはずよね?」
「そう……ですね」
 僅かに俯き、寂しそうな笑みを浮かべた遙だが。
 顔を上げて師と向かい合い大きく肯いた。瑠璃子の黒い瞳と、遙の栗色の瞳がお互いの姿を映している。気が付けば霧雨は止んで、薄闇の空を切り裂くように降り注ぐ幾筋もの目映い光。
「瞳子ちゃんとの縁は、パステルがくれた大切な宝物です」
 力を帯びた口調で言った遙の髪を、優しく撫でた瑠璃子は名残惜しそうに手を引いた。いつものように、悪戯っぽい微笑みを浮かべて肯き返す。
「あの茶館は、私の洋館と同じ空間に存在している。様々な人の想いが集い、互いに触れ合う場所となる……はず」
「はい」
 描き手の想いが込められた、たくさんの絵は、茶館に訪れる人々の心を柔らかく包み励ましてくれる。
 そして絵達に愛され、心と心に橋を架ける瞳子の存在。穏やかで優しい眼差し、不思議な色あいの瞳。彼女に見つめられたとして、その瞳に隠されたすみれ色に気付く者は少ないだろう。
 大きな力を秘めた瞳は茶館と共に、平穏な時間を紡ぎ続ける。そうあって欲しいと遙は思う、ふと見つめる師の想いも同じはずだ。
「悲しみに負けない、強い子だものね。瞳子ちゃんを支えてくれる存在を待つことにするわ……」
 瑠璃子は自分自身に言い聞かせるように言った。
「すべてを貴女に任せます」
 遙の視線に気付いていたのだろうか。言葉少なく、そう告げた瑠璃子が想いを振り切るように、外套の裾を大きく翻した。
「また会いましょう、遙」
 その瞬間に目映い光が溢れ、黒衣の画家は姿を消した。
 ひとり残された遙は、何処かへと旅立った師が、ふわりと残した光の欠片を見送る。
 師の予見は正しい。
 瞳子を守っていた風は、遠くへ旅立ってしまうのだろう。だが湖に広がる波紋は、瞳子と触れ合う瞬間を待っている。
 既にこの世を去っている遙は、茶館を取り巻く運命に関わることが出来ぬ。寂しさを紛らわせるように、静かなすみれ色の水面を見つめていたが、ふと顔を上げて空を振り仰ぐ。
「私自身の存在が、瞳子ちゃんを悲しませることになるかもしれない……」
 それが辛い。
 美しい風景の中に佇む遙の姿は、溢れる涙を堪えているようにも見えた。
 
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